タッピンねじとは、主に下穴を開けた鋼板に、自らめねじを切りながら締結できるねじです。小ねじとの違いは、ナット等のめねじが不要なため部品点数を少なくでき、片側から効率良く作業できるという特徴があります。鋼製タッピンねじには浸炭熱処理が施されており、表面は硬く、内部は柔らかく靭性を持たせています。ステンレス製のタッピンねじは、冷間加工により得られる特性(加工硬化)を利用し表面を硬くしています。
タッピンねじの種類
タッピンねじは頭部形状、ねじ山ピッチ、先端形状によって種類分けされています。ここでは、ねじ山形状種類の紹介をします。
1種(A)
ピッチが最も粗く、先端が尖っている。 最も流通しているタッピンねじ。
2種(B0)
1種よりピッチが細かい。 先端は2~2.5山程テーパになっている。
2種溝付き(B1)
2種の先端を1/4カットした形状。ねじ込みやすい。
3種(C0)
外径・ピッチが小ねじと同じ。呼び径に対応するナットを使用可能。
3種溝付き(C1)
3種の先端を1/4カットした形状。ねじ込みやすい。
4種(AB)
1種同様先端が尖っている。ピッチは2種と同じ。
選定の基準
タッピンのねじは締め付ける相手の材質によって適切なものを選定する必要があります。以下に選定の基準を紹介します。ただし、実際に使用する製品を決定する際には、実物での検証が必要です。また、樹脂やアルミなど各相手材質に特化して設計された製品もあるため、それらの使用を検討することも有効です。
<参考>
相手材質 | 厚さ | ねじ部形状 | 理由 | |||||
1種 | 2種 | 3種 | 2種溝 | 3種溝 | ||||
板金 | 銅、黄銅 | 比較的うすい | ○ | ○ | ○ | 溝付の必要なし | ||
アルミ | 比較的厚い | ○ | ○ | ○ | 板厚と材質によっては2種溝無しでも可 | |||
ステンレス | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 呼び径に対して板が厚いものは溝付きが良い | ||
構造用鋼 | ○ | ○ | 溝無しではねじ込みトルク過大 | |||||
鋳物鋳鉄 | アルミ・マグネシウム・亜鉛・黄銅 | ○ | ○ | ○ | 材質によっては2種溝無しでも良い | |||
ネズミ、可鍛 | ○ | ○ | 材質がもろい | |||||
銅・黄銅・青銅 | ○ | ○ | ねじ込みトルクが大きい | |||||
プラスチック | ○ | ○ | 材質がもろい(ワレ、穴破壊の恐れあり) | |||||
ハードボード | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
石綿加工材 | ○ | ○ | ○ | きめの粗いものにピッチの細いものは不適 |
下穴の設計について
タッピンねじ使用時はその下穴の設計が重要になります。下穴径の設定の際には以下の項目に鑑みてその仕様を決定します。
●下穴径は作業性と締付強さとの関連で決定され、作業性を重視する際は大きめ、締結力を重視する場合は小さめに設定する。
●下穴径が設定値に対して、±0.05㎜の許容差で管理するべき。
●めねじ部材が薄鋼板などの場合はバーリング加工する。
●袋穴の場合、穴の深さはタッピンねじの長さよりも余裕を持たせる。
●相手材が樹脂などの脆い材料のときは、入口に面を取るかガイド設けることで、表面のかけを防ぐ。
●ねじ込みトルクがねじり強さの1/3を超えないように下穴を設定する。
●ねじ込みトルクを1とすると、めねじ破断トルクは3以上であることが望ましい。
下図はトルク測定したグラフで、TDが「ねじ込みトルク」、TFが「めねじ破断トルク」を示しており、TF/TDは3.39/0.78≒4.3と読み取れ、3以上のため適正なねじと判断できます。
下穴寸法一覧
タッピンねじを使った設計の際に目安となる下穴の寸法をご紹介します。あくまで目安ですので、実際には各使用用途に合わせた設計が必要です。
<参考>
【1種】単位:㎜
板厚 | ||||||
0.4 | 0.6 | 0.8 | 1.0 | 1.2 | ||
呼 び | 3 | 2.2 | 2.3 | 2.4 | 2.5 | 2.6 |
3.5 | 2.5 | 2.6 | 2.7 | 2.8 | 2.9 | |
4 | 2.7 | 2.9 | 3.0 | 3.1 | 3.2 | |
4.5 | 3.3 | 3.4 | 3.5 | 3.6 | ||
5 | 3.6 | 3.8 | 3.9 | 4.0 | ||
6 | 4.5 | 4.7 | 4.8 | 4.9 |
【2種及び4種】単位:㎜
板厚 | ||||||||||||
0.4 | 0.6 | 0.8 | 1.0 | 1.2 | 1.6 | 2.0 | 2.6 | 3.2 | 4.0 | 5.0 | ||
呼 び | 2.5 | 1.9 | 1.9 | 2.0 | 2.0 | 2.1 | 2.2 | |||||
3 | 2.3 | 2.4 | 2.5 | 2.5 | 2.6 | 2.6 | 2.7 | |||||
3.5 | 2.6 | 2.7 | 2.8 | 2.8 | 2.9 | 2.9 | 3.0 | 3.2 | ||||
4 | 3.0 | 3.0 | 3.1 | 3.2 | 3.3 | 3.4 | 3.6 | 3.7 | ||||
4.5 | 3.4 | 3.5 | 3.6 | 3.7 | 3.8 | 3.9 | 4.0 | 4.1 | 4.2 | |||
5 | 3.8 | 3.9 | 4.0 | 4.1 | 4.2 | 4.3 | 4.4 | 4.5 | 4.6 | |||
6 | 4.7 | 4.8 | 4.9 | 5.0 | 5.1 | 5.3 | 5.5 | 5.7 | 5.7 |
【3種】単位:㎜
板厚 | |||||||||||
1.0 | 1.2 | 1.6 | 2.0 | 2.6 | 3.2 | 4.0 | 5.0 | 10.0 | 16.0 | ||
呼 び | M2 | 1.6 | 1.6 | 1.7 | 1.7 | 1.8 | |||||
M2.5 | 2.1 | 2.1 | 2.2 | 2.2 | 2.3 | 2.3 | 2.3 | ||||
M3×0.5 | 2.5 | 2.5 | 2.5 | 2.6 | 2.7 | 2.7 | 2.7 | ||||
M3.5 | 2.9 | 3.0 | 3.0 | 3.1 | 3.1 | 3.2 | 3.2 | 3.2 | |||
M4×0.7 | 3.3 | 3.4 | 3.5 | 3.5 | 3.6 | 3.6 | 3.7 | 3.7 | |||
M4.5 | 3.8 | 3.9 | 3.9 | 4.0 | 4.0 | 4.1 | 4.1 | 4.2 | |||
M5×0.8 | 4.3 | 4.3 | 4.4 | 4.5 | 4.6 | 4.6 | 4.6 | 4.7 | 4.7 | ||
M6 | 5.3 | 5.4 | 5.4 | 5.5 | 5.5 | 5.5 | 5.5 | 5.6 | 5.7 | 5.7 | |
M8 | 7.3 | 7.4 | 7.4 | 7.5 | 7.5 | 7.5 | 7.5 | 7.6 | 7.7 | 7.7 |
タッピンねじの選定
これまで紹介したのは、あくまで一般的な内容であり、実際の選定の際には以下のような要素を加味して、決定する必要があります。
●相手材
●使用環境
●作業性(締付け時間や工具)
●耐ゆるみ性能
また、その使用にあたっては鋼板の厚みや下穴径だけでなく、締付けトルクなども決定する必要があります。
八幡ねじでは「トルクアナライザー」と呼ばれるトルク測定機を保有しており、実際の母材をご提供いただき最適な下穴径やトルクを検証することが可能です。最適なタッピンねじの選定にお困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。